初夏/吉田ぐんじょう
 

初夏の山は
いいにおいをしたものを
たくさん体の中に詰めて
まるで女のように圧倒的な姿で
眼の前に立ちはだかってくる
たまに野良仕事をしている百姓が
山に見惚れていることがあるが
あれは欲情しているのだろうか


わたしの生家は山のふもとにあって
四方を水田に囲まれている
その為に
陸にあるのに孤島のように見える
ちょうど今頃の時期になると
水田には水が入り
休日に青空が植えられるので
晴れた日には空も周囲もみんな青くなる
まるで浮かんでいるみたいな気持ちである


夜になると水田からは
蛙の泣く声がきこえる

初夏に泣く蛙はご先祖様の生ま
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