肉屋のある風景/大覚アキラ
 
電信柱の影で
身籠ったおんなが
ロシア製の粗悪なピストルを構えている

臨月に近い巨大な腹が
電信柱からはみ出しているのも気にせずに
震える手で
ピストルを構えている

揺れる銃口の先には
肉屋が一人
ただ黙々と鶏を捌いている

血抜きのために
鉤爪に吊るされた鶏たちが
どこかの山村の民芸品のような風流さで
のどかな五月の風に
ユラユラと揺れている

自分が狙われていることを
知ってか知らずか
揺れる鶏の合間を
上手い具合に肉屋は行き来し
おんなの狙いはなかなか定まらない

やがて
痺れを切らしたおんなは
電信柱の影から
転がるように飛び出す
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