チェス:初期設定の話/渕崎。
 
レクスを抱いていたのだけど」
「泥沼ですね」
「あぁ、愛憎劇もいいところだ。類は友を呼ぶ、というのはあながち間違っていないのだろうな。同じような価値観、同じような家庭環境、同じような経済観念。少しでも齟齬が生じたら、崩れないだけのバランスをまだ保てなかったの、ただの相性かはわからないけれど」
「で、先輩は結局彼女のことが好きだったんですか嫌いだったんですか?」
「好きだったよ。今となっては嫌われてしまってこれ以上嫌われるのが嫌だから連絡すら取れないけれどね」

寂しいものだ、と彼女は笑って彼女との会話のうちに気もそぞろになっていた俺から黒のキングを取り上げた。
チェックメイト、と彼女が小さく呟く。

「簡単なようでいて難しいですね」
「そうさ。簡単なようで難しい問題なのだよ」

初期設定、ね。
あぁ、だからあの従兄妹は空恐ろしいほどに互いのことを知り尽くし互いのことを理解しあってるのか、と俺は彼女の深遠を垣間見ると同時にあの友人とその従妹の繋がりの強さを同時に理解した。

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