塔の欠片/なかがわひろか
無邪気だったのよ
お土産の作り物の塔の欠片を
指でいじりながらそう言う
きっと無邪気だったのよ
もう一度君は言った
外を行く人たちが
笑ったり怒ったり
無表情だったり
とにかくよくあるような景色を
作り出している
知識はね
君は続ける
無邪気さを奪うのよ
だってそうでしょう
空の果てまで続く塔を建てるなんて
物理学的に見ても不可能だって
賢い人ならそう思うわよ
僕は君の言うことに
頷きながら
外の景色を見たり
君を見たりを繰り返す
きっと無邪気だったのよ
もう一度君は言う
何も知らない生まれたての子どものように
無邪気だったのよ
外の景色は変わらない
君はお土産の作り物の塔の欠片を
優しく放り出して
頬杖をつく
もしかしたら
僕が言う
天使の陰謀だったのかも
君は聞こえない振りをして
外の景色を見つめる
まあいいさ
僕はつぶやく
(「塔の欠片」)
戻る 編 削 Point(0)