雨の知らせ/朝原 凪人
がった。
(わたしは、わたしたちは雨。それだけです)
セーターから吸いきれなくなった水が滴る。
「冷たいね。それに寒い」
(そうですか。それはごめんなさい)
直径二ミリの十八階建てビルがくるりと一回転。
(冬が泣いていますから)
「冬が?」
(泣いています)
雨の中に雨の降る街。
朔風に乗ってでたらめなステップ。
(そろそろ)
「あぁ。ありがとう。楽しかった」
(いえ)
「もし」
雲の切れ間から差し込んだ陽。
世界は白く染まった。
「もしもう一度冬に逢ったら謝っておいてくれないか」
太陽は一瞬にして隠れ再び世界が色付いた。
「それからありがとう。と」
(わかりました。伝えておきます)
雨は街を回した。
風が強く吹いた。
(では)
手を離す。
雨は雫となりアスファルトに。
弾けた。
世界が正しい位置を取り戻す。
十字路に吹き込む風の音。
冬の泣き声だろうか。
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