追憶演技/楢山孝介
野良犬を見かけなくなって寂しいだとか
犬の糞を踏まなくなって嬉しいだとか
駅前の駐輪場はどこも整備されてきて
雪崩れを起こして倒れなくなったなとか
そんなことにふと気付くことがある
数年前の街の光景を大袈裟に懐かしんだりする
父や母たちの世代がいう
バナナの値段は昔から変わらないねだとか
もう加山雄三も七十歳だねだとか
そんなのと同じ調子で
少し昔の光景を懐かしがっている
歳を取ったね僕たち
時代は移ろいゆくね
なんて老け込んだ振りをして
セピア色の過去を無理やり捏造している
野良犬に追いかけられたいだとか
犬の糞を踏んで悔しがりたいだとか
ぶつかった拍子
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