そのまま僕になっていく/たりぽん(大理 奔)
 
右のポケットに
湿ったままのハンカチ
トイレのドライヤーで乾かして
にわかに水蒸気は生まれていくが
それは霧でもなく雲でもない
つまり、僕のポケットには
虹は入っていないという事

エントランスから駅のバス溜まり
小さな湿りは缶コーラのこぼれた痕
穴からそびえる街路樹を揺らす風に
閉じた輪が、ひたすら縮んでいく
いつの間にか奪っている事を忘れて
散水車が中央分離帯に水をまく
聖者だ、まるで聖者のようだ

太陽よりも反射がまぶしいので
ハンカチを持ったままの手で
敬礼してみる
ドライヤーは二日酔いの息
小さな布きれから感じる
森や海では知らなかった匂い

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