久保田/atsuchan69
 
【くの一】と白抜きの文字。
淡い夜に晒された濃藍の暖簾をくぐると、
和服に割烹着の女主(あるじ)――

  「アラ、いらっしゃい。今日はお独り?

 まーね、萬寿。コップでちょうだい
  「そう。今日はすこし汗ばんだ陽気だったものね
 しかしビールを飲むってほどでもないんだナ、これが。

  「菜の花のお浸し、食べてみる?

 女将、もしかして土手で摘んできたのかな
  「まさか、まさか、そんな筈ないじゃないの
 いや、土手で摘んできた菜の花を食べてみたい

  「少しアクがあって苦いかもしれないワ
 うん、口内炎を呼び起こすみたいな味覚だ

  「――はい、
[次のページ]
戻る   Point(5)