写真うつりも気になるのだ/若原光彦
 

これは本当にへのへのもへじか
おいへのへのもへじと呼んでみたところで
へのへのもへじは何も答えない
ううむと腕組みして考え込んでいると
お前また珍しいことをしておるなと父が覗きに来た
おお父よいいところにこれを見てほしい
これが何に見えるか率直な意見をお願いしたいのだ
ふむ水墨画かなかなか巧いなお前にこんな才があったとは
しかしひいじいさんの顔なんてよく憶えてたな
そう言われたときには腰が抜けるかと思ったのだ
実際には目玉が飛び出たのだ耳を疑ったのだ
ちちちち父よこれがひいじいさんか確かかと聞くと
何だ違うのかと父は憮然としていたのだ
ちっちちちっ父と全く似ておらんではないかと指摘すると
隔世遺伝だお前は似ておるとぬかしよったのだ
ぬああ自分はへのへのもへじに呪われているのだうあああああ
そうとしか考えられない禁忌だ暗部だ駄目だ触れてはならなかったのだ
父よそれはあなたで始末してくれ誰にも言うな何も聞くな独りにしてくれ
恐ろしくて恐ろしくてその日はそのまま泣きはらしたのだ
以来怖くて怖くて鏡がまともに見られんのだ
戻る   Point(3)