話によると/んなこたーない
モーパッサンは当時新たに建設されたエッフェル塔を忌み嫌うあまり、塔内にあるレストランに通いつめたという。というのも、パリにおいてこの伝統的な建築美に反する醜悪な姿を目にしなくて済む場所は唯一そこだけだったからである。
機械文明や科学の進歩といったものに対する懐疑・不安は、絶えず変奏・反復され、長い間ひとびとの感情生活の深奥にわだかまってきた。そこで表現されるものは、日進月歩の技術世界から脱落することへの恐怖であり、また同時にチャップリンの「モダン・タイムス」にあるような個性を抹殺し社会の歯車たるべく非人間化を強制する合理的産業への不信感である。産業主義と美的欲求の和解を断念した結果、ふたつの
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