書店で働くということ/吉田ぐんじょう
 

本を読む人の眼は
例外なく真っ黒い色をしている
それはもちろん
眼が活字のインキを吸収してしまうからである
本を読みすぎて
白眼まで真っ黒になってしまった人が
こちらを向いてにいっと笑ったりすると
結構怖い
きちんと見えているんだろうかと思う

棚に沿って
ずらりと立ち並んだ人たちの間を縫って
雑誌を整頓していると
時々
樹になってしまった人を見つける
帰りたくなくなってしまったのだろう
そういう人には丁重に声をかける

お客様
お客様

二度呼ばっても人に戻らない場合は
他の店員に手伝ってもらって
根元から
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