蛸男/なかがわひろか
ばいいか
迷っていた
まだ利き腕を見つけていないようだ
君はとても優しいね
今まで誰もそんなことを言ってくれなかった
便宜的に決めた利き腕をとりあえず空中でふらふらさせながら
蛸男はそう言って
僕のほっぺに吸盤でキスをした
なかなか吸い付きが強かったから
きっと明日になっても痕は残るだろう
もう行くよ
久しぶりに会えてよかった
蛸男はそう言って
去っていく
蛸男
うじゃうじゃしている足元を遠目に見ながら
聞こえないように
笑った
(「蛸男」)
戻る 編 削 Point(3)