蛸男/なかがわひろか
 
ばいいか
迷っていた
まだ利き腕を見つけていないようだ

君はとても優しいね
今まで誰もそんなことを言ってくれなかった
便宜的に決めた利き腕をとりあえず空中でふらふらさせながら
蛸男はそう言って
僕のほっぺに吸盤でキスをした
なかなか吸い付きが強かったから
きっと明日になっても痕は残るだろう

もう行くよ
久しぶりに会えてよかった
蛸男はそう言って
去っていく

蛸男
うじゃうじゃしている足元を遠目に見ながら
聞こえないように

笑った

(「蛸男」)
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