コザカしくないひと/んなこたーない
根府川と真鶴の間の海の
あのすばらしい色を見ると、いつも僕は
生きていたのを嬉しく思う、
僕の眼があの通りの色なら
すべての本は投げ棄ててもいい。
沖の方はパイプの煙のような紫で、
だんだん薄い緑が加わりながら岸へ寄せてくる、
岸辺にはわずかに白い泡波がたち、
秋の空の秋の色とすっかり溶け合って、
全体がひとつの海の色をつくっている、
猫のからだのようなやわらかさの下に、
稲妻の鋭さをかくしている海、
ああ、この色を僕の眼の色にできるなら
生きてゆく楽しさを人にわかつこともできるだろう。
一連目だけの引用だが、書き写しているとあの感動が蘇ってくる心持がした。
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