【超短小説】不揃いカフカ/なかがわひろか
 
 カフカが並んだ僕の部屋の本棚を、君は丹念に本の背をなぞりながら、「一冊だけ足りないわね」と言った。
 カフカは結局たくさんの未発表の作品を遺して死んだ。それはつまりカフカの作品数を正確に把握できないことを示す。実際に発表された作品は把握できても、カフカが遺した作品がどれだけあるかなんて普通の女の子が知るはずもない。だけど君は少しの疑問を持たずに僕に向かってそう言った。
 「一冊だけ足りない」
 君はもう一度そう繰り返す。
 僕は君にどの本が足りないのか尋ねようとしたけれど、それを聞いたところで僕はきっとその一冊をわざわざ集めようとしないだろうし、君の言ったことが結局正しいのかどうか分から
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