【短:小説】深夜の電話/なかがわひろか
 
り睡眠に入っている訳がない。
 僕は数秒間黙ったままだった。だってそうだろ。突然有名小説家にこんな深夜遅くに電話をかけてこられて普通に対応ができるほうがおかしい。
 「もしもし。」僕はとりあえずそう返した。
 「いつも僕の作品を読んでくれてありがとう。君ほど熱心な読者はいないよ。」
 確かに僕は彼の本をいくつか読んだことがある。ただ有名なものをかいつまんで読んでいる程度で、決して熱心とは言えない。それどころか、僕はどちらかというと彼の作品のどこか多くの人の心を惹きつけるのかが全く分からない。
 「今は次の新作について執筆中なんだけどね。ちょっと詰まってきたんだよ。だから気分転換
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