Mの肖像/んなこたーない
ばかりが頭に思い浮かぶものなのだ。
結局、ぼくは最後にMに会ったときのことを何一つ思い出すことができなかった。というのも、ぼくらはあまりに頻繁に行き来していたので、日時の前後関係がずいぶん錯綜しているのだ。それは後にあらたまってみんなでMの思い出話をした際にも、それぞれのあいだで記憶が違っていることでも窺い知れた。
また、おそらく人間には記憶を合理化しようとする本能があるのだろう。単純なことですら話が噛み合わない場面が多々あった。
ぼくらが行きつけにしていた飲み屋はF駅を北口に降りて通りをしばらく歩いたのち、裏路地に入るとすぐのところにあるDというバーである。そのバーでぼくは一時期働
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