海とポンコツと、おまえ/佐野権太
 

代車はポンコツで
辿り着いたのは夜明け前で
見せたかったもののすべてが
色をなくしてた

広げたシートに寝転んだ横で
おまえは
膝に、小さなあごを埋めて
ゆっくり、ひらかれてゆく朝を
ただ、見つめていた
波にゆられて聞いた
おまえの潮騒
遠く、近く
(ねぇ、
(すごいよ

*

あの頃の俺たちの旅といえば
気まぐれだったから
宿なんかとらなかった

コインランドリーの銀色のドラムは
湿った俺たちを
ふわふわ持ちあげて
柔軟剤の香りを
深呼吸するおまえは
(このまま
(直らなければいいのにね
なんて、笑ってた

あそこに置いてきちまったな、片っぽ
鮮やかな
オレンジの

*

壁に留めてあったのは
海にもたれる
ポンコツと、おまえ

そこだけが、まだ白くて
さっきから
グラスの光が突き刺さって
まるで、さきゅう

なぁ
波が
すごいぜ






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