海とポンコツと、おまえ/佐野権太
た
代車はポンコツで
辿り着いたのは夜明け前で
見せたかったもののすべてが
色をなくしてた
広げたシートに寝転んだ横で
おまえは
膝に、小さなあごを埋めて
ゆっくり、ひらかれてゆく朝を
ただ、見つめていた
波にゆられて聞いた
おまえの潮騒
遠く、近く
(ねぇ、
(すごいよ
*
あの頃の俺たちの旅といえば
気まぐれだったから
宿なんかとらなかった
コインランドリーの銀色のドラムは
湿った俺たちを
ふわふわ持ちあげて
柔軟剤の香りを
深呼吸するおまえは
(このまま
(直らなければいいのにね
なんて、笑ってた
あそこに置いてきちまったな、片っぽ
鮮やかな
オレンジの
*
壁に留めてあったのは
海にもたれる
ポンコツと、おまえ
そこだけが、まだ白くて
さっきから
グラスの光が突き刺さって
まるで、さきゅう
なぁ
波が
すごいぜ
戻る 編 削 Point(18)