【小説】お百度参り/なかがわひろか
 
女は雨の中を、願いを胸に抱き走り続ける。女の残す素足の跡が、雨の路に流れる。長い黒髪が雨に濡れる。滴り落ちる水音が誰もいない神社に響き渡る。
 雨は止むことがない。低気圧が男にすがる愛人の様に停滞する。気温は昨夜から下がり続け、女の足はきっともう感覚がなくなっているだろう。それでも女はその足を止めない。

女を滴る水音が、女がまだその足を止めない証である。

〜一〜

一人の年老いた男が立ち止まる。
戦争を生き、戦後を生き、残り少ない寿命にしがみついている、男。
妻に先立たれた後すぐに、家を長男に譲り、老人施設に隠居することを決めた。同じような時代を生きた者たちと余生を過ごすのも
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