【小説】読書/なかがわひろか
 
か、多少の予想はついていた。考えられるだけの劇的な展開を想像してみたが、もしその通りになったとしてもそれは興味を惹かれるような内容ではないことはよく分かりすぎるほど分かっていた。

 彼女はしおりを挟むことなくその本を閉じた。彼女の決断はその物語を最後まで読むことを止める、ただそれだけだった。

 彼女に読まれることのなかった言葉たちは、おそらく永遠にその角張った立方体の中に閉ざされ、日の光を見ることはない。彼女はその物語の描かれた本を本棚の奥の方に入れ、また新しい物語が描かれているであろう本を机の上に積み上げられた本の塔から抜き取った。

 彼女はその本を机の上にすぐに手に取れるように置いて、紅茶を入れに台所へ急いだ。

 新しい物語を紡ぐ言葉たちは、彼女の目に触れるのを今か今かと待ち望んでいる。

 彼女が湯気の立った紅茶を手に部屋に戻ってくる。

 外の景色は、変わらず春を彩っている。

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