花冷え/水町綜助
本だけ開いてもだめだ
四本開いても
ひらいてない
一本残っている
こゆびを開いてみな
それでようやくひらいたってことになる
あたりまえのことだが
ぼくは
そこまでひらききらない内に
途中で左手にうつったろう
さびしいことを隠すくらいには
こと足りるみぎ手だった
しっかりとは
握れない
もらった花が咲き始めている
薄いハンカチが
こぼれたミルクを吸い込むような
その染みのひろがりのような速度で
きみが見知らぬ町の
森の中で
端から燃やされている
知らずぼくは
ぼくの見知らぬ町の中で朝
きのう稲妻の後に大粒の雪が降った道の上で
散る花びらの中で
呼吸の音を聞いて
それによろこぶ
そんなことを知りなおしている
*
いま
染みのひろがりに目を落とし
もうまっすぐには見ていられないほどに
部屋の中真っ白く咲いたそれは
ひらききった瞬間から
頂から落ち
すでに散りはじめている
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