*波止場ポート/チグトセ
 
字で「セックスレス」と書かれてあった。


「どう? あの落書き」
僕が戻ってくると椎は目を輝かせて訊いてきた。
「わたしセンスあると思わない?」
「センスっていうか、ストーリーありすぎ。誰がどんなつもりで書いたんだよって思わず考えちまうぞ」
椎の隣に腰を下ろし、僕が答えると彼女は満足げにうなずいて、立ち上がって大きく伸びをした。
「セックスレス……わたしのお気に入りの言葉。それをね、赤いスプレーで書いたっていうのがポイントね。わたしの血液と同じ赤」
椎は指を拡げて、起き抜けの太陽にかざしてみせた。
「……なんで血管ってこんな色してんだろ」
「そのまんま赤かったら気持ち悪いじ
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