『レクイエム・レモン/ひかり』/川村 透
いつか僕と暮らすだろう
新しい一日の始まりにきっと君は家族のために
庭に水を打つんだウツクシク真夏の果実よ君のまなじりは清く、死人、みたいに
スコヤカで、
マスカットの汗を拭う僕は見とれて、ただ、子どものように見とれて果実を剥く
はずのナイフで指を傷付けてしまう
痛い、いたい。フレア、いたい、君といたい/君はいない
血は赤い、血は黒い、兄、はいなくなったどこにもいない行ってしまった真夏
の蜜柑、紡錘形の果肉、そのひとつぶひとつぶを透かして見ると船に見えた連絡船だ
兄、と堤防から、しょんべんをした
波は引潮、あわあわと退いてゆく、僕たちのしょんべんも夕陽へといつかは流れ着く
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