睦言/六崎杏介
 
「何時だったか…。」
「聞いた話なんだけどね。流れ星になった少年の話だよ。フラッシュバックに存在しない、沿意を性とす情念のね。いいかい、流れ星になりたいと、ヘロイン中毒の少年が願い、祈り、赤かった空が拡がった跡の後、サリンジャーが藍色くなる夕宙にね、ガソリンをかぶって街で一等高いビルディングから身を投げた。沢山の人がその鋭利な放物線を視たそうだよ。落下点では、もちろん落ちた星の解体をする訳だよ。なんといっても星の欠片であるからね。黒い群像が取り巻く。そこに一人の少女がいたんだけれど、この娘についても少し語らなければね。彼女は若くて貧しい売春婦なのだけれど、今夜の流れ星-つまり少年だね-に、素敵な
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