9月の傾斜/山田せばすちゃん
 
はぼくのてをにぎりかえしながらそっとみみもとでささやいた
           かわいそうだけれど、と


「このひとでなし」
笑いながらそういった女はそのあと急にうつむいたきり
しばらく嗚咽を噛み殺していたけれど
なんと答えていいやら分からないままに間抜けな顔で煙草をふかす僕に
あきれたのかあきらめたのか
けたけたと笑いながらアイスコーヒーを
氷ごと僕の顔にぶっ掛けて
そのまま席を立ってしまった


           きみらはみんなひとでなしだ、ぼくのいぬをよってたかってころしてしまうんだ
           それからぼくもひとでなしだ、ぼくをたよってぼくのかわりにひかれたぼくのいぬを
           ぼくはたすけることもできないで、きみのてをにぎっているだけでせいいいっぱいだ


気がつけば


           きがつけば


九月の空だ


           くがつのそらだ
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