春の思い出/なかがわひろか
 
ぬるい香り
何かを思い出しそうで
その曖昧さに脳が少し離れそうになる

裸足にそっと伝うのは
こっそり夜中に会いに来た
春の温度

脳の裏側をゴシゴシしたら
すーっと剥がれ落ちてきそうな思い出
ぬるい香りの正体は
きっとそこに隠れている

階段を駆け足で下りる
たまらなくなって
また階段を一気に駆け上がる
どれだけ早く走っても
ついてくる、春の匂い

春の匂い

春の匂い

また思い出に
思い出が覆いかぶさる

どこかに

どこかに

春の匂い

春の匂い

(「春の思い出」)

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