悪魔、舵輪、その他/hon
にいる生者の尊厳にね」
硬直した死者のあるポーズを職員が二人がかりで
懸命に矯正していた
グリッサンド奏法
よう子がピアノを弾いていると
白鍵がみるみる赤に染まっていた
教師の大島はあわてて彼女を制止した
「ストップ、ストップ、指から血が出てるじゃないか」
「あら、さっきの連続したグリッサンドで指が切れて」
「ピアノを汚されてはかなわない。バンソウコウを……」
大島はばたばたと部屋から出ていった
よう子は右手からしたたる血を左手で受けていたが
窓の外の枯れた木の枝をぼんやり眺めながら
そっとこうつぶやいた
「私が悪いというより、作曲家がこんな書法で書いたのが
いけないんじゃないかしら」
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