マドラー目線/ブルース瀬戸内
 
ようだ。
皆にマドれて私にマドれないこともあるまいと
高を括っているところもあるが、
それはプラスチックの表面上の話で、プラスチックの内面では、
どこかでマドれない自分を想像していたりする。
言い忘れたが私は全身をプラスチックに委ねている。

そして突然に私がマドる番が来た。
人生の大勝負はいつも突然にやってくるものだ。
私は珈琲と褐色の恋人がまみれるカップに投入される。
その先は不覚にも目をつむってしまったので
何が起きたのか覚えていない。
気付くと珈琲と褐色の恋人は見事に融合していた。
私は無事にマドれたようだ。

私はマドラー。いい名前ではある。
「ラー」の響きなんて秀逸だ。

しかしこれで良かったのだろうか。
これだけで良かったのだろうか。
私は存在を既定されたが故に楽をしていないだろうか。
達成感で不安の核心を隠してないだろうか。
あるいは生きるとはつまりこういうことなのだろうか。

私は水洗いされて、いつもの場所に逆立ちして戻る。
一人前のマドラーになったことで
世界が少しつまらなくなった気もする。
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