お気に入りの棺桶/なかがわひろか
 
紳士が私に声をかけます
きれいだね
私はにっこり笑って答えるのです
ええ、きれいです

柔らかな芳香に包まれる
そんな私を想像して
私はまたにっこりと笑います
紳士はそんな私の頭を撫でて
明日また会おうと
優しく微笑みそっと彼方に消えて行きます

雲の切れ間から太陽が光を差し込みます
私はその明るい場所へ行き
今日の命を感じます
私は生きている
そして改めて知るのです
故に私は死ぬのだと

頭の上を一羽の鳥が飛んでいきます
私はその鳴き声にレクイエムのメロディーを乗せながら
お家へと帰ります

(「お気に入りの棺桶」)
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