自分は見た/んなこたーない
 
ていると、見知らぬ女性に肩を叩かれた。振り返ると、女はどうぞと言ってポケットティッシュをさし出してきた。
 「えっ」
 「使ってください」
 「何のつもりですか」
 「えっ。だって、鼻血が出ているじゃないですか」
 言われてはじめてぼくはそのことに気がついた。そそくさとポケットティッシュを受け取り、鼻を押さえた。女は満足そうな笑みを浮かべると、ぼくから少し距離をとった位置に移動して、それからあとは何事もなかったかのようにあらぬ方向ばかりを眺めていた。ぼくは自分がまったくの被害者であると感じた。自分の内部のもつれた感情のすべてが女の責任にあるような気がした。

 ぼくはあらゆる美徳を拒
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