お百度参り/なかがわひろか
 
合う音
しかし誰もが紛うだろう
この雨音と
しかし誰かが聞くであろう
女の音を

一人の紳士
雨に濡れることは
久しく忘れていた
女の足が跳ねる度
消えぬ思い出が胸を圧す
いつしか犠牲を厭わなくなった
母は死んだ
それだけのこと
雨は男の涙を薄め
男はそれを唯一の頼りとする

男の妻
犠牲の証
雨に涙を隠す夫
弱き男
初めて愛を知る

女はまだ走り、願う
人々はただそれを見守る
雨に濡れた長い黒髪
それはとても美しい
女はただただ、美しい

老爺
少女
紳士


一人の女に集った者よ
女は何故走るか
女は何故止めないか

雨に濡れる女に
最早遅すぎた願いを
皆は祈る

(「お百度参り」)
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