既にそこにあるもの?1/んなこたーない
 
人コンテスト」が定期的に催されていた。
ぼくが初めてそのパーティーに参加したとき、すでにAは常連らしく、強い発言権を持ってその場をとり仕切っていた。
「美人コンテスト」とは名ばかりの互いの品評をかねた雑談において、
かれは女装における自らの持論を語り、なにやら哲学的な言辞をまくしたてていた。
その様子を目撃したぼくはとっさにかれのことを危険人物視したのだが、
その他の会員の反応を見る限り、どうやらかれはその場での信用をかちえている様子であった。
「アブノーマルな性癖を持つものは、己の意識をより一層明晰にしておかなければならぬ」と、
一般の女装愛好者が戯画的な女言葉を使うのと違い、かれはそれ自体異様な言葉遣いをして述べた。
そうしてかれは今日の自分のメイクや衣装について講釈をたれはじめた。
それにつられて、ぼくらも醜悪で怪物じみたお互いの顔を眺めあい、その美しさを称えあった。
そこには倒錯的でありながら、たしかにうっとりとするような快感があった。
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