がらくた屋敷の中で/夕凪ここあ
廃屋はきたないところなんかじゃないよ
だって
薄暗い部屋からのぞく夕焼けはきれいなんだ
雨が降ると雨漏りして楽器みたいだし
窓のそばで埃がきらきらしているし
庭では虫がたくさん鳴いている
それに
お母さん、
子猫が産まれたんだ
まだきっと目だって開いてないんだ
お母さん、子猫が産まれたんだ
すぐにゆういち君にあやまりに言った
ゆういち君は怒るふうでもなく
ただ
子猫の名前考えなきゃ
とだけ言った、いつものぶっきらぼうな感じで。
あの日から廃屋係はなくなった
遠足だって近かったからみんなそんなことすぐ忘れてしまった
次の席替えでゆういち君とは席がだいぶ離れてしまった
私もまたスクールバスに戻った
廃屋にはあれから一度も行っていない、
机の奥に
猫の観察日記帳だけがしまわれている
ゆういち君のいけない癖がもうあたりまえになっていた。
たまに泣きそうになっても泣かない、
子猫に笑われてしまうし、
もうゆういち君も怒ってくれない。
楽しみだった放課後、
ゆういち君、ばいばい。
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