暗がり/436
春を見ずに死んでいく
捨てられた子犬は
どれほど悲しいものか
いや春を知らないということさえ
知らなければ
さほど悲しくはないのかもしれぬ
悲しいのはそれを見つめて
自分にそれをなぞらえている
どうにもできない自分自身だ
そういえば私もこの道を歩んでいるのだった
彼岸へとまっつぐに続くこの道を
ゆっくりと確実に
春を知ってしまったばかりに
やけに悲しい気分になりながら歩いているが
絶望やら虚無やらといった気分とは大違いだ
そうか
彼岸へと続くこの道を
ゆっくりと死にながら歩いているのだから
私の中の感情を受容する部分も
ゆっくりと死のうとしているのだ
この真っ暗なトンネルのような道の上で
戻る 編 削 Point(2)