旅人の探し物/紅柳みつば
 
いた
 
少年は自分の旅を
振り返って
あることに気がついた
 
 
少年には
話し相手がいなかった
 
どれほど素晴らしい
建物を見ても
どれほど素晴らしい
景色を見ても
 
少年には
それを伝える相手が
いなかった
 
 
少年は本の裏に
ボールペンで一言
こう書いた
 
「この世で最もすばらしいものは、愛である」
 
 
それは
少年の旅の中で
唯一経験することのない
ものだった
 
少年は最後にもう一言
「旅は無駄ではなかった」
とつぶやいた
 
 
 
その本はやがて
時を経て
 
ある一つの幸せな家族のもとに渡った
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