喪服屋マリー/吉田ぐんじょう
 
濁った沼のある寂れた町に
マリーという女が住んでいた
マリーの本名は誰も知らない
彼女は
夏の真夜中のような眼をした
中々の美人であったが
友達はいなかった
若者はみな都会へ行ってしまったし
この町に立ち寄る人はいなかった
たまに長距離トラックの運転手が
沼のほとりで
栄養ドリンクを飲み干す程度だった

マリーは
レゴ・ブロックで作られたような形の四角い家に
たった一人で生活しながら
ひっそりと仕立て屋を営んでいた
母も祖母も曾祖母も
マリーの家は代々仕立て屋を営んでいた
得意分野はそれぞれ違った
母はイブニング・ドレス
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