森の中のタイヤ/ぽえむ君
 
森の中に
タイヤは捨てられた
誰にも見つからない
誰も見つけようともしないだろう
タイヤは毎日
真上の青空を
口を丸くして眺めるだけだった
たまに流れてくる白い雲を見ては
無理をして走ったりした
自分の青春時代の頃を思い出した
いろいろな場所を見た
賑やかな街
広い海の見える丘
長い旅だった
雪の日は素足ではしゃいだこともあった
今となっては無茶な思い出だった
そして
あの雨の日の夜
水が道を光らせ
あのガラスの破片に気づかなかったのだ
その場面でタイヤは目を閉じた

森の中で小鳥が鳴く
タイヤは仰向けになったまま
ぼんやりと空を見続けていた
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