レモン海/佐野権太
 
八角形の小箱は
ブルーウォーターで満ちていて
覗き込めば
ぶちの鞠が回転している

それは
滑らかな哺乳類の群れだ
あるいは
みるく色の
貝類の
ひとかたまりに
溶けて


こうして
他愛のない話にうなずいているときも
小箱は
白い窓辺にぽつんとあって
レースの淡い模様に
まるく洗われながら
遠い海とつながっている


気がつくと
ふたり黙ったまま
見つめている


砂丘のむこうからレモンの海
風に吹かれて
あのときも
そんな目をしていた



ときおり
水のかさなる音がする







戻る   Point(26)