少年は病的に解放する/水町綜助
 
その少年は無垢なようでいて
染まっているまたは染めあげられている

もうずっと前に
そうだこの子の歯が三十二本あたらしく
生えそろった頃に
俺はあの
沢山の水とほんの少量の油を入れたでかい漬けダルの中に
けして混ざりきることのないその中に
この子を屋上から蹴り落としたのだった
ということを
少年の夭折(ようせつ)した父ですらもう忘れた
いや自分から身投げしたのだったか
それすらもはっきりとしない
そしてその侵食は
少年が落下し始める事と同時に起こった彼の父の死によって決定的に沈着した
ということももう忘れられた

落下する少年
屋上で突然死した父親

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