空の巣/水町綜助
 
 車は走る。

酒などなめる程度にしか口にしていないのに、なぜか疼痛があたまにしつこくこびりついている。
ウインカーの点滅音。
そのメトロノーム。運転手はハンドルを大きく右に切った。
ゆるやかな遠心力に同調して、頭痛がゆるやかに膨れ上がる。
痛みに目をすがめる。
こんな夜はそれこそ日常茶飯事だったような、そうでないような。
頭痛の痛みを切り離して、僕はそれを考えてみようとする。
運転手が口を開いた。

「本降りになってきましたね」

フロントウィンドウの水滴が、ひとつを飲み込み、またひとつを飲み込み、一筋の流れとなって落ちていく。
街灯で銀色に染まった大きな水溜まりが、
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