うるさい無音が舞う部屋で/なかがわひろか
 
うるさい無音が舞う部屋で
あなたはピアノを奏でる
無音はあなたの音に慄き
我先にと部屋を抜け出す

その格好のままでいて
僕があなたの隣に行こうとすると
あなたは優しく
そして少し厳しく
僕に言う

そこにいるあなたを弾いているの
僕は黙ってうなずく
そして耳を澄ませる
この部屋ではあなたの奏でる音だけが
正しい

音が止んだ部屋に
無音が入り込もうかどうか
入り口で躊躇している

彼らを入れてやってもいいかい
そう聞くと
お好きなように
またいつものあなたに戻る

無音は喜んで
またうるさく踊りだす
僕のことを奏でた音は
まるで大人の仲間入りを果たそうと背伸びした
大きな子どものように
黙ってそれを見ている

もう弾かないのかい

あなたは黙る

うるさい無音が舞う部屋で

僕の声は
かき消されたようだ

(「うるさい無音が舞う部屋で」)
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