虹/水在らあらあ
十漕ぎで 俺たちの船は命を持つ
それは水を切り裂いて歌い始める
俺たちも歌う 全身で歌う
冒険の歌 冒涜の歌を
声は空に向かい 空は歌い返し
海は受け入れる 高らかに歌い上げられる破壊の歌を
人間の歌を 嘘と言い訳を 物語を
三度にわたり抽象化された世界の影を
外洋に出て 帆を揚げる
風が伝える言葉は 抽象化以前の純粋な音だから
俺はそれを手のひらで感じる ロープをにぎる
手のひらで知る
それは思い出を裂いて 裂いて その一番奥の深みに
小さな光を灯す 花が咲く 咲いた花を 俺は嗅ぐ
そんなときの俺はただの獣だ 過去も未来もない
目的も指標もない あこがれも後悔もない
生きていることだけが
純粋な愛だ
死んだおまえが漂っている
ゆらゆら 手をふりながら
遠ざかってゆく 日を受けて きらめく水を分けて
俺のかなしみを裂いて
甲板で
死んでゆく魚たちの腹に照りつける太陽を見るたびに俺は思う
この心にはいつでも虹があればいい
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