湾岸経由蜜柑畑行き/岡部淳太郎
か細く
ちるりり ちるりり
鳴いていたのだろうか
車道をバスが通り過ぎる
そのタイヤには泥がこびりついている
昨夜降った雨の名残りだろうか それとも
泥である私の一部だろうか
そんなことを思っているうちに
バスは遠く
淋しさそのものである道の
見えない先の方へと
走り去ってしまった
あのバスはきっと
海に注ぐ川の上にかかる 橋を渡る
それから先は
さらに目に見えない淋しさだ
この湾岸を経由して
土地の奥へ
そのまた奥の蜜柑畑へと
向かうのだろうか
私は蜜柑の木の根元の
泥となれるだろうか
か細く
ちるりり ちるりり
鳴きながら
枝の先の甘い汁を
育てることが
できるだろうか
私は泥を守る
私はあまりにも私すぎる
私という泥はいまも
かわくことを
かたくなにこばんでいる
(二〇〇七年二月)
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