重力を使いきってぼくらは/hon
平日の午後の淡くうすらいだ日差しは
ここ植物公園の順路にも平等に降りそそいでいる
ダッフルコートを着たタイピストが古びたベンチで
自分宛ての手紙を子細らしく開いている
吐息のような西風が広場をなでて
家族連れにポラロイドのシャッターをきらせた
ポプラの木陰で意味もなく泣いている若い女の
人工的な香水の匂いがふわりとひろがる
こんなにも正当に思える午後のためにぼくらは
重力を使いきって強欲に集めつづけている
眠気をもよおすような慈悲深い光の束を
かなしい かなしくない かなしいの……
あてがわれた若い水夫は女と並んで去っていく
慈悲深い光のもとでタイピストは手紙を開いている
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