歌う女、聞かない男/なかがわひろか
 
巻く

枯れた木々は今にも
青々と茂りそう
うつむいた花は
太陽を睨むように咲き誇りそう

トンテンテン
トンテンテン
操り人形の舞踊り
あらあらとってもきれいだから
その糸を
ちょん切ってやろうかしら

彼女は歌った

聞いたでしょ

とっておきよ

彼は言う

僕等の間にある空気の中の
酸素や水素やなんだかが
輪廻の循環から解き放たれるように
君の声が外に出た瞬間
我先にと喰らい付いていく

僕の耳に入る頃には
君の歌は
ほとんど
喰い尽くされているんだ

彼女は少し考える、少し難しい

もう少しだけ考える

だったらこうしましょ

彼女は彼の耳の側までやって来る

外に触れさせる前に
あなたの中に入れればいいわ

彼女は歌う

小さな声で

優しく歌う

彼は

聞く

(「歌う女、聞かない男」)
戻る   Point(2)