あかるい岸辺/佐々宝砂
 
いた淵も
深い青緑の水をたたえて
私を迎え入れてくれることでしょう
でも今はこんなに真っ白な雪の朝
私は頭痛に耐えながら
目をしばたたくばかりです

岸辺には落葉松の林があって
目をむき髪をふり乱した女たちと
血まみれの赤んぼたちが
鈴なりになっています
ときおり風が吹くと
女と赤んぼは風に乗って
あっちの岸へこっちの岸へ飛ばされてゆきます

自分を見失ってしまうくらいに
大きな声で叫んだら
あっちの岸に届くでしょうか

昨日の夜も
やっぱりこの岸はあかるかったのです
満月と林が
雪のうえに灰色の縞目をつくっていました
月まで登る梯子はありませんでした
川を渡る橋もありませんでした
私を包むやさしい椅子もありませんでした
それで私は
一晩中 この岸辺に立ちつくしていたのです
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