Starbow/佐々宝砂
 
だけれど

亜紀が何者かわたしは訊ねない
あのひとはきっと教えてくれないだろうし
記憶を検索すると強固なブロックに突き当たる

0と1でできたわたしの思考に
薄い紫がかった灰色のかなしみがながれる
喪失感でなく疎外感でなく怒りでなく
不思議なことに嫉妬ですらないこの感情パターンは
かつて味わったことがないものだとおもう


亜紀の声で
秋の草原の穏やかな稔りに似たコントラルトで
わたしはあのひとにささやく
ただスタァボウの美しさを頌えてささやく

スタァボウはほとんど停止したようにみえる
でもわたしは知ってる
あのめくるめく色彩は
ほんとはひとときたりとも
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