愚者/
彰
口に含んだあめ玉色の
建物や生き物が
こちらへおいでと
手招きをして誘うから
さぞ 甘い夢を
見られるのだろうと
振り返りもせず
あの子は
駆けていってしまった
あざやかに
裾を翻し
揺れる簪の音は
ほどなく聞こえなくなって
左手は隠しに閉じ込め
胸の内に感じる風を
堪えて佇む この身を
見られずにすむことが
唯一の幸福であると
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