飽和した世界/吉岡ペペロ
 

戦後しばらく

人蕩らしとも言うべき論客たちが

哲学や宗教をざっくばらんに面白おかしく

ときには涙や蹉跌をもって聴衆に語りかけていた

人心の覚醒や変革を目指したそれらは

夢や幻、暇つぶしではなかったか

夢幻が飽和した世界には

あらゆる暇つぶししか残らなかった

暇つぶしとはたとえば

自然に裏切られながら

自然に癒されながら

自然を畏怖しながら

感謝や祈りを捧げながら

生きてゆくこと

母を殺して

妻を殺して

家に火をつけて

重傷をおって

それでもなお生きてゆくこと
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