天寿/本田憲嵩
 
冬、まだ生き続けている。とても大きなオオクロバエ。窓ガラスに張り付いたまま。もはやほとんど動かない。指さきを近づけてみてももはや俊敏に飛び立つこともしない。それはまるで、もう十分に生きてきたから、みたいに。あれほど活発で憎たらしかった生命が、今や、とてつもなくはかない存在、としてそこに人生(あ)る。それはどこか、やすらぎ、のようにも見える。


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