打弦幻聴録/ただのみきや
身体があるのかないのか
あるのならそれがどこにあるのか
わからないが
無数の手を生やしている
時間とは いわば剥奪者
人が変わるのは
往々にして引き算だ
なにかを得たつもりで
いったい幾つのものを失くしたのか
気づくのはずっと後のこと
整理されていく
混沌から
秩序へと
やがて割り切れない
素数のようなものだけが残る
1以外 すなわち人であるということ以外
何者とも割り切ることのできない己だけが
現実が認識の前に存在していたとしても
人ひとりひとりを
夢見る一個の宇宙卵ととらえるなら
意識のまだ暗い水平線から
認識の日差しが訪れるのは
まさ
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